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    ザ・ソプラノズ:イタリアン・マフィアのリビドー・エクリチュール

    ドラマ『ザ・ソプラノズ』はカウンセリングの出てくる映画/海外ドラマという「教えてgoo」の質問項目への回答として目にして、気になったのでレンタルした。

    同ドラマは1999年から2007年にかけて全6シーズン・全86話で完結した人気ドラマで、エミー賞を96個ノミネート、通算17回受賞している。

    主人公はトニーことアンソニー・ソプラノ。イタリア系マフィアの実質上のボス。

    トニーが突然パニック発作で倒れ、サイコセラピーを開始するところから物語が始まる。

    抑うつ症状もないのにプロザックを処方し過ぎだろう、とか、プロザック&リチウムで幻覚見たりしないだろう(意識障害の副作用が出たのかもしれないが)、とか、突っ込みたくなる部分は多いが、心理療法に関心があれば楽しく見ることができるだろう。

    (なんといっても精神科女医がわりと古典的な精神分析の指向があるところが面白い。字幕翻訳の問題かもしれないが、しばしば「分析医」と呼ばれている)


    ぼくは家族療法から療法家としてのトレーニングを開始したため、トニーが巻き込まれているいくつかの「家族」へ関心を持って見始めた。

    まずトニーは初代ボスの長男であり、老人となった母親、妻、長女、長男を家族として持っている。

    さらにイタリア系マフィアの特徴でもある、自分のグループを「家族」とよぶ習慣を持っている(その名もソプラノファミリー)。

    ソプラノファミリーの初代ボスの長男であるため、実質上のボスはトニーだが、物語中、名義上のボスとしてオジを擁立する。

    老人となって気むずかしくなった母親を施設に入れるのだが、このことがますます母親を気むずかしくいていく。

    母親はオジとだけはうちとけて話すのだが、なにかにつけて「見捨てられた」と泣き叫ぶ。

    つまりトニーにとって、ファミリーは単数形ではなく、ファミリーズだ。


    こうした「ファミリー・トリック」とでもいいたくなる仕掛けが張り巡らされているため、家族療法の観点からは大変面白い事例がつぎつぎと生じるのだが、やはりトニーが倒れた(パニック発作を初めて起こした)きっかけが、家の庭のプールに来ていた鴨が飛び立った、という事実にある、という点に、つねに注意しておくべきだろう。

    分析医らしく、女性セラピスト・ジェニファーは、この「鴨の飛び立ち」の象徴的意味を探るのだが、力動論的な指向を持ち合わせない家族療法家は、こうしたセラピストの態度に苛立つかもしれない。

    1999年開始のドラマということは、アメリカの心理療法は大半が短期化を指向するアプローチのはずだ。

    つまり家族療法の源流となったシステムズ・アプローチにもとづく、ブリーフ・セラピー/ソリューション・フォーカストをはじめ(ただしブリーフ・セラピーのドンであるスティーヴ・ド・シェイザーは、家族療法家と呼ばれるのを嫌っていた)、認知行動療法のような指示的な手法が盛んだったはずだ(これに対し、セラピストが指導したり直接介入をするのを避け、クライアントに「気づき」が訪れるのをひたすら待つカール・ロジャーズからの流れを非指示的療法という)。


    われわれ療法家が気をつけなければならない教訓を、このドラマに見出すとするなら、「鴨の飛び立ち」というきっかけを背景に退け、複雑極まりない「ファミリー」の人間関係への介入こそが、解決への近道だ、というような決めつけ・早合点を控えるということだろう。

    分析医ジェニファーは、きわめて無表情で無愛想だが、とてもチャーミングで、じっさいトニーは性的な興奮を彼女におぼえるのだが、当然それは「転移」とされて退けられる。

    彼女は積極的な介入課題を出さないが、完全に非指示的というわけでもなく、転地療法などをすすめる。

    最終的に彼女は、逆転移と見られても仕方がないようなやりかたでトニーの母親に診断名を下してしまったり(この行為は当然職業倫理にもとる)、トニーから「命が危ないから町を出たほうがよい」と忠告されるまでマフィアのいざこざに巻き込まれたり(結局杞憂に終わり、トニーは報告に行くが、彼女は町を出た後だった、というオチでファースト・シーズンは終わる)、次シリーズ以降では彼女自身がセラピーを受けることになるようだ。


    ジェニファーとトニーのセッションを主人公にドラマを見てみよう。

    もちろん治療室での面談だけではない。トニーの無意識が彼女との対話によってどのようにうごめいているのか、その〈諸リビドー〉がこのドラマの主人公たちなのだ。

    なんといってもファースト・シーズンのクライマックスは、第11話でのトニーが見る幻想(幻覚)だ(話数は日本語版DVDに依拠する。日本語版では第1話が「プロローグ」とされており、13話目が、第12話ということになる)。

    ネタバレを避けるために「何が」幻想なのかは伏せることにする。


    第12話で、この幻想――トニーはその幻想へ性的欲望を感じず、幼子に乳をやる若い母親として見るのだが――を、ジェニファーは、トニーの母親がトニーを殺そうとしている暗示として見る(トニーがその幻想を見る直前に、トニーの母は、母親による子殺しの話を食事中に行っている)。

    第11話では「その幼子はあなただ」としたうえで、第12話では「その幻想を見た理由は去勢不安だ」と解釈する。

    面白いことに、きわめて古典的にみえるこの解釈は、フロイト的というよりも、リビドーの備給先――つまり「すでに失われた対象」――を〈ファルス〉とし、無意識の構造を言語をモデルに考えたラカン的である。

    ラカンにとって、リビドーはシニフィアンに向かうものだ(ジェニファーも徹底してそのラインにそっている)。

    これが正しいというわけではない。

    デリダによるフロイト読解によるなら、リビドーは言語的なものではなく、エクリチュール、つまり物質的なものだ。

    第1話でトニーのリビドーは「プールの鴨」へ向かっていたことを思い起こそう。

    ジェニファー=ラカンに従うなら、「鴨の飛び立ち」はトニーのファルスを奪ったことになる。

    これは、RICO法(日本でいう暴対法)施行後のアメリカでマフィアを続けることの不安と重なる。

    去勢不安は、あまりに複雑にもつれてしまったファミリーズを維持していく、父としてのプレッシャーと解釈できよう。

    トニーが回復するとすれば、FBIにも狡猾に立ち回り、複数形のファミリーズを束ね、〈ファルスを持つ〉ことができたときだ、ということになる。


    しかし、物語――つまりトニーの諸リビドーのうごめき――は、そう単純には進まない。

    最終的にトニーがファルス(とジェニファー=ラカンなら解釈するもの)を持つことになるのは、トニーの回復や立ち回りによってなどではなく、気まぐれなFBI捜査と母親の突然の発作によってである。

    これは完全に偶然によるとしかいえず、偶然がトニーを救ったのだ。


    ファースト・シーズン最終話のサブタイトルは"I Dream of Jeannie Cusamano"で、これはジェニファーとの会話でトニーが語った、彼の夢の内容だ。

    夢のなかで、トニーは隣人で医師の(そしてジェニファーの友人の)Cusamano氏の妻と後背位でセックスをしていたと語る。

    「でかいケツ」というセリフにジェニファーは注目し、「彼女は痩せている」と指摘する。

    英語版Wikipediaでは、このやりとりはトニーのジェニファーに対する性的欲望を暗示し、ジェニファーもトニーへ惹かれていることをほのめかしているとされている。

    おそらくそれは正しいのだが、ではなぜ、トニーはジェニファーの夢を見ずに、ジェニファーの友人の夢を見たのだろうか。

    部分対象(「でかいケツ」)を代えてまで?

    フロイトは「夢だけが現実だ」と言っている(夢においてのみ、現実に出会うことができ、覚醒時には出会いそこないしか起こらない)。

    トニーのリビドー配置は、プールの鴨から、ジェニファーへ誤配し、さらに幼子に乳を与える母性へ誤配し、さらにジェニファーの「でかいケツ」およびCusamano夫人へと誤配する。

    リビドー配置が単数ではないことに注意したい。

    リビドーは単一の対象へ備給されるのではなく、「配分」される。

    トニーのセラピーがここで完結するとするなら、対象を移行しながら反復強迫を続けてきた彼が、複数対象へと再配置を完了したことをもって、彼の回復がなしとげられたと考えるべきではないか。



    ダイエット

    232日目。

    体重63.4kg(19.1kg減)。体脂肪率18.2%(9.4%減)。


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