Entries

    【椿】歳時記シニフィアン #俳句

    紅椿
    • 紅椿四号線を狂犬が占拠してゐる 秀雄

    【椿】 山椿 藪椿 白椿 紅椿 乙女椿 八重椿 玉椿 つらつら椿 花椿 椿林 落椿

    ツバキ科の常緑高木の花。「椿」は国字で、春の事触れの花の意。中国で椿の字をあてる木は別種で、山茶と書くのが日本の椿にあたる。日本にもともと自生していたのは藪椿であり、それをもとに園芸種が多数作られた。八重咲きと一重咲きとがあり、鮮紅・淡紅・白色など色はさまざま。

    (角川学芸出版編『俳句歳時記 第四版増補 春』(角川ソフィア文庫))

    『NHK俳句』テキストの3月号で、高柳克弘の連載「名句徹底解剖ドリル」が最終回だった。

    個人的にNHKのテキストでは、これと山西雅子の「旧かな入門」は面白いと思う。

    高柳克弘の3月号までの連載では、名句を鑑賞しつつ、「正しい解釈はどれでしょう」という形式のクイズになっていて、攻めてるねえ、と思った。

    なぜなら、詩とか文芸作品とか芸術作品とかにかんしては、「解釈は自由じゃん」というのが「鑑賞初心者」のよくやる言い分で、これは主に国語教育の問題でもあるのだけど、といっても国語教師が悪いのではなくて学校・授業・教室というスペースが嫌われているというだけのことにすぎなくて、言い換えれば勉強一般が嫌われているという、この国の特殊事情による。

    ためしにセンター試験の現代文の過去問を一年分だけでもやってみれば明らかなように、「自由に鑑賞して良い領域」と「厳密に一義的に決まるはずの領域」は区別される。で、国語教育の内容はいろいろだけれど、試験で扱われるのは後者だけである。

    ようするに、小説だろうが詩だろうが、ロジカルに解釈できる部分はロジカルに詰めるべきであって、詩なり芸術なりが散種(dissemination)している「言葉にならない」部分は、そもそも試験では問われない。

    ついでに言うと、「私は文系だから理系科目が苦手で」というのもよくある言い分なのだけど、文系科目と理系科目の成績には正の相関があって、これにはエビデンスがある。理系科目が苦手な(ロジカルに思考できない)奴は、文系科目の成績も悪いのだ。

    高柳克弘の3月号までの連載は、一句にかんして分析していくやり方だった。たとえば鷹羽狩行の有名な句:


    • 落椿われならば急流へ落つ 鷹羽狩行

    これについて、Q1は《椿は散るとき、花ごと落ちる特徴があります。この句では、そうした「落椿」を、どんな印象で捉えているでしょう?》というもの。選択肢は《潔いもの》《不吉なもの》で、まあ、簡単ではあるけれど、これは一目瞭然なので、答えやすいクイズとして第一問に持ってきたのだと思う。

    ただ、このQ1で残念なのは、解答解説の部分で《……不吉なものにも詠まれますが、この句では潔いものとして詠まれているのが目を引きます》と、「どんな読者が読んでも潔いものとして解釈するだろう」ということを前提にしてしまっているところだ(つまりロジカルに解説していない)。さらに、作者の自句自解を引いて、作者もこう言っていますよ、と流してしまっている。これは国語の教育としては最悪のやり方だ。作者がどう言おうが、どう考えていようが、テクストは作者を裏切って独立して屹立するというのがテクストをロジカルに読む大前提だ(だから現代文の試験をその文章の作者が解いても、満点が取れないということがよくある)。

    で、この「落椿」が「不吉なもの」でなくて「潔いもの」であると解釈しなければならない理由は、実はQ3にある。《文語である「落椿われならば」の部分を口語にすると、次のうちどちらになるでしょう?》というもので、単純な文法問題である(選択肢は省略)。

    これは古文の授業でうんざりするほどやった、例の「順接仮定条件」と「順接確定条件」の区別。

    【未然形】+【接続助詞「ば」】で「順接仮定条件」(もし~ならば)。

    【已然形】+【接続助詞「ば」】で「順接確定条件」(~なので)。

    ここは「ならば」と【未然形】+【接続助詞「ば」】になっているので、「順接仮定条件」となり、「落椿が私であれば」という意味になる(ちなみに已然形+「ば」は「~なので」以外にもいくつか意味があるので、文法のテキストを読みなおしてもらいたい)。

    そうすると、この句全体の意味は、もっとも単純な、ロジカルな次元においては、「もし落椿が私であったなら、急流に落ちる」という意味になり、「落椿」に「潔い」感じを与えているのは「われならば」の部分であることが分かる。もし仮に「落椿は私であるから」だとすれば、作者の自殺願望が投影されていることになり、不吉と言えなくもない、ということになる。

    というわけで、3月号で最終回だった「名句徹底解剖ドリル」に替わり、4月号からの高柳克弘の新連載は「判定ドリル名句名勝負」である。

    関連がある2句をとりあげて、比較検討するものだ。ここでもクイズ形式がとられている。第1回から、良い内容だった。

    • 白牡丹といふといへども紅ほのか 高浜虚子
    • 赤い椿白い椿と落ちにけり 河東碧梧桐

    第1回にふさわしい、この俳句史上最大のライバル対決。高柳の解説からの孫引きとなってしまうが、正岡子規は《碧梧桐は冷かなること水の如く、虚子は熱きこと火の如し》と評していた。

    なお、「白牡丹(はくぼたん)」は夏の季語【牡丹】の傍題。春と夏の対比、「赤(紅)と白」という共通性以外に、比較をするポイントはどこにあるのか。

    高柳は3つの判定ポイントを挙げている:

    • 1:赤と白の色彩をはっきりと対比させているのはどちらでしょう?
    • 2:音調の柔らかさがあるのはどちらでしょう?
    • 3:正岡子規の亡きあと、「ホトトギス」を大きく発展させたのはどちらの作者でしょう?

    まずイージー問題は3で、これは高浜虚子。文学史問題。

    1の「色彩の対比」は、輪郭のある赤い物体と、輪郭のある白い物体を視覚的に表現しているため、《赤い椿》の句が正解。ただし、「紅ほのか」も視覚的ではある(「ほんのり見えている」ぐらいの意味)。「ほのか」という語で、対照の鮮烈さをぼかしている。碧梧桐句がパキっとくきやかに見せているのに対し、虚子句は水彩画のようににじませている。

    なお、形容詞「赤し」「白し」の連体形は「赤き」「白き」であるが、ここでは音便化(イ音便)して「赤い」「白い」になっている(口語ではない。為念)。

    形容詞の音便について、ここで表でまとめておこう。

    品詞音便活用活用形原形音便形
    形容詞イ音便ク活用連体形良きこと良いこと
    形容詞イ音便シク活用連体形珍しきこと珍しいこと
    形容詞ウ音便ク活用連用形良くあり良うあり
    形容詞ウ音便シク活用連用形珍しくあり珍しうあり
    形容詞撥音便ク活用補助連体形良かるなり良かんなり
    形容詞撥音便シク活用補助連体形美しかるなり美しかんなり

    で、碧梧桐は「赤き椿」「白き椿」とせずに「赤い椿」「白い椿」としたわけだが、その理由を想像すると、少し音調を柔らげたかったのかな、と思う。音調の柔らかさについてのポイント2を見よう。ちなみに音調が柔らかいのは虚子の句である。

    • 白牡丹といふといへども紅ほのか 高浜虚子
    • 赤い椿白い椿と落ちにけり 河東碧梧桐

    ここでは高柳の解説よりも少しくどい分析をしてみよう。ローマ字表記にしてみる:

    • HAKUBOTAN TO IU TO IE DOMO KOU HONOKA 虚子句
    • AKAI TUBAKI SIROI TUBAKI TO OTI NI KERI 碧梧桐句

    高柳によれば、虚子句の音調の柔らかさは、まず上五の字余りにあり、次に中七下五で「いふといへども紅ほのか」と《たっぷりと》言葉を使っていて《ふくよか》な印象を与える、としている。

    ではこの《ふくよか》な音調、柔らかい音調は、何処から来ているか。


    単純化のために、「軟音」「普通」「硬音」に各音を、単音のレベルで分類してみる(実際には単語や文節レベルで、無声化したり構音方法が異なったりする)。

    母音:AIEを「普通」、UOを「軟」とする。

    子音:

    • (1)カ・キャ・ガ・ギャ・サ・シャ・ザ・ジャ・タ・チャ・ツァ行の各段を、「硬音」とする。
    • (2)カ゜(ガ行鼻音)・ダ・ジャ・パ・ピャ行の各段およびヅを、「普通」とする。
    • (3)ナ・ニャ・ハ・ヒャ・ファ・バ・ビャ・マ・ミャ・ヤ・ラ・リャ・ワ行の格段を、「軟音」とする。
    • (4)ンは発音の音声学的分類いかんにかかわらず、「軟音」とする。

    母音:

    • 虚子句:AUOAOIUOIEOOOUOOA(普通:AIIEA、軟音:UOOUOOOOUOO)
    • 碧梧桐句:AAIUAIIOIUAIOOIIEI(普通:AAIAIIIAIIIE、軟音:UOUOO)

    子音:

    • 虚子句:HKBTNTTDMOHNK(普通:D、硬音:KTTTKK、軟音:HBNMHN)
    • 碧梧桐句:KTSRTBKTTNKR(硬音:KTKSTKTTK、軟音:BRBNR)

    以上の分類を、点数化する:

    【虚子句】

    • 軟音:UOOUOOOOUOOHBNMHN(17)
    • 普通:AIIEAD (6)
    • 硬音:KTTTKK(6)

    【碧梧桐句】

    • 軟音:UOUOOBRBNR(10)
    • 普通:AAIAIIIAIIIE(12)
    • 硬音:KTKSTKTTK(9)

    こうしてみると、虚子句は圧倒的に軟音、つまり《ふくよか》で柔らかい音調を持っていることが分かる。

    また、碧梧桐句が決してくきやかなだけではない、バランスのとれた音調を持っていることも分かる。

    もちろん、ここでの分類はアドホックなもので、例えば音声学でいう「破擦化」が起きている「ツ」「チ」はさらに硬度のポイントを上げて計算すべきかもしれない(そうしたとしても碧梧桐句の硬音は12点になるだけだ)。

    また意味上、「けり」を高い硬度を持っている切字と見なすこともできよう。

    なお、音声学のテキストとして斎藤純男『日本語音声学入門【改訂版】』(三省堂)を参照したが、硬軟の区別やポイント化はぼくがここでアドホックに行っただけである。

    椿(三春) 山茶(つばき) 山椿 藪椿 乙女椿 白椿 赤椿 紅椿 一重椿 八重椿 伊勢椿 唐椿 玉椿 千代椿 つらつら椿 花椿 落椿 散椿

    【解説】濃緑色の厚いつややかな葉の間に大輪の花を咲かせる。「藪椿」など野生のものもあるが、ほとんどが栽培種で、花は一重、八重があり、花瓣の肉が厚く鮮紅、淡紅、白、紅白絞りなどさまざまである。「乙女椿」は八重の可憐な花で、「玉椿」「千代椿」などは美称、「つらつら椿」は万葉の歌から出た名で、木の列なり生えた意という。花全体がポトリと落ちるさまを忌む人もあるが、その静かな気配は捨てがたい。伊豆大島は全島に椿が繁り、種子から採った椿油を名産とし、京都の椿寺は椿の老樹で知られている。

    【参考】ツバキCamellia japonica Linnaeusは北海道を除く日本各地に自生しているツバキ科の常緑高木、また観賞用または採果用として庭や畑に栽培もする。園芸品種が非常に多く、一々品種名がついているが、オトメツバキ、ワビスケなどでもみな植物学上はツバキという名の一種に統一される。ただし中国原産といわれるトウツバキ、日本の東北、北陸、山陰などの産地に特有なユキツバキはツバキとは別種である。ツバキの自生種をヤブツバキまたはヤマツバキと称して園芸品種と区別することもある。ツバキは韓国、中国、台湾にも分布し、漢名を山茶という。ふつうに書いている椿という字は春と花木という意味で日本で作った字である。

    「日本の花ごよみ」ではスイセンとともに二月の花である。   (本田正次)

    (飯田蛇笏編『新装版 俳句歳時記 春の部』(平凡社))

    椿 紅椿・白椿・一重椿・八重椿・乙女椿・藪椿・山椿・雪椿・玉椿・つらつら椿・落椿・散椿

    花弁の肉が厚く、つやつやしい葉の間に大輪の艶麗(えんれい)な花を咲かせる。花全体が音を立てて地面に落ちる。紅椿・白椿の他に紅白絞りの品種もあり、一重椿も八重椿もある。乙女椿は桃色または白色で、八重咲の可憐な椿である。藪椿一名山椿は野生種で、趣が深い。北国には雪中に咲く小型で、山茶花に近い雪椿がある。玉椿は美称である。

    椿は日本で、春を代表する神聖な木の意をこめてツバキに当てた。実は椿(ちん)は一〇メートルにも達する常緑喬木。山茶(つばき)を日本ではサザンカに当てているが、中国ではこれがツバキ。また海石榴(つばき)とも書く。

    「新嘗屋(にひなへや)に生ひ立てる葉広(はびろ)斎(ゆ)つ真椿、其が葉の広りいまし、その花の照りいます、高光る日の御子」(『記歌謡』)、「巨勢山(こせやま)のつらつら椿つらつらに見つつ偲はな巨勢の春野を」(『万葉集』)などと古歌に詠まれている。

    伊豆大島は椿の名所。種子から椿油をとる。

    (山本健吉『基本季語五〇〇選』(講談社学術文庫))

    • 遁水や椿ながるゝ竹のおく 芭蕉
    • 鶯の笠おとしたる椿かな 芭蕉
    • 暁のつるべにあがる椿かな 荷兮
    • 陽炎のもえて田にちる椿哉 曲翠
    • 椿踏む道や寂寞たるあらし 支考
    • 椿落ちてきのふの雨をこぼしけり 蕪村
    • 赤椿咲きし真下へ落ちにけり 暁台
    • 造花又赤を好むや赤椿 高浜虚子
    • 赤椿落ちたる平家物語 高浜虚子
    • 美人落つるが如くに椿落ちにけり 高浜虚子
    • 紅白の椿源平盛衰記 高浜虚子
    • 赤い椿白い椿と落ちにけり 河東碧梧桐
    • 落ちさまに蝱を伏せたる椿哉 夏目漱石
    • 椿つなぐ子に父問へばウン死んだ 渡辺水巴
    • 椿落つる我が死ぬ家の暗さかな 前田普羅
    • かほどまで咲くこともなき椿かな 飯島晴子
    • 廻廊の雨したたかに白椿 横光利一
    • 花弁の肉やはらかに落椿 飯田蛇笏
    • 路幽く椿の紅を炎えしめざる 竹下しづの女
    • 咲き満ちてほのかに幽し夕椿 日野草城
    • 落椿わが乳母島の女なりき 中村草田男
    • 椿流れ去りたる水の青さ聚る 内藤吐天
    • 木の上の童が呉れし椿かな 山口波津女
    • 夕日明るく朝日は暗し紅椿 加藤知世子
    • みな椿落ち真中に椿の木 今瀬剛一
    • 落椿人の訃を聞く径昏るゝ 森田夏
    • 落椿俯伏せに墓を抱くごとし 林翔
    • 滑川へみな掃き落す椿かな 片山楸江
    • 落椿われならば急流へ落つ 鷹羽狩行
    • 残雪に椿少女の踏みにじる 川上弘美

    *遁水=にげみず、寂寞=せきばく、蝱=あぶ、花弁=はなびら、幽く=くらく、聚る=あつまる

    関連記事
    スポンサーサイト
    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
    http://orangeprose.blog.fc2.com/tb.php/1875-d6f5806d

    トラックバック

    コメント

    コメントの投稿

    コメントの投稿
    管理者にだけ表示を許可する

    Appendix

    counter

    FC2ブログ

    ブログ

    リコメンド




    ノートンインターネットセキュリティ


    ブログランキング

    QRコード

    QR

    メールで更新を受け取る



    提供:PINGOO!

    ブロとも申請フォーム

    この人とブロともになる