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    李賀「出城寄権璩楊敬之」

    まだ午前中の昼前だというのに、ぼくはどうしても眠りにつきたくて、タオルケットを体に巻きつけてからハンドタオルで顔面を覆うようにして目隠しをしつつ、上昇してくる体温と脈拍数に抗うために、ゆっくりとした呼吸を維持しようとするのだが、意識を集中しすぎてかえって神経がヒリヒリしてしまい、室内の温度は暑いのだか寒いのだかよくわからず、ただ体の表面は小刻みに震えており、それが冷えた体温を上昇させようとして自動的に生じる反応としての震えなのか、交感神経が昂ぶりすぎてノルアドレナリンだかコルチゾールだかが過剰に分泌されている反応なのか、それともたんに恐怖心がどこかからやってきているということなのか、どういうことなのかわからないままベッドの上でじっとしていると、左腕の脇の下あたりに猫氏がやってきて、彼も腕にくるまれて丸くなって眠りたいのか、それとも両手をちょこんとぼくの肩にのっけて眠りたいのか、そもそもそんな姿勢でどうして眠りたいのだか自分でも不思議に思っている様子だったが、両手をちょこんとのっけたり、おろしたり、そのへんてこな動きは優しくマッサージをしてくれているように見えて、ひたすら「ありがとう、ありがとう」とぶつぶつつぶやいていたのだけれど、「ありがとう」という言葉の「借り物感」って強烈だなあ、などと思いつつ、しかし借りてきたのでない言葉などないのだ、ぼくは昔から「ちゃんと自分の言葉で語りましょう」というような偽善9割水分とタンパク質1割、みたいな教師に反吐が出るほど嫌悪感を抱いてきたのだがしまいには反吐のかわりに血反吐が出る、なんてことを考えながら猫氏が寝入るのを見届けてから少し眠ることができた。

    眠ることができたのが、1時間ほどなのか、30秒ほどなのか、4日ぐらい眠り続けてしまったのか、目を開いてすぐにわかるものではない。ただ、ぼくの左腕の脇の下で眠っていたはずの猫氏が、すっくとベッド脇に立ち上がってぼくを見下ろしていた。そして絶望的なことを告げる、という様子で体を縮め、こうぼくに言った。

    猫氏

    「李賀が帰ってしまうよ。」

    そんなばかな、と思った。あの李賀が帰ってしまう!

    城を出て!


    李賀はこんな歌を作って去っていった。

    (出城寄権璩楊敬之)

    草暖雲昏萬里春

    宮花払面送行人

    自言漢剣当飛去

    何事還車載病身


    草は暖かい。雲は暗い。遥か彼方まで春。

    城で散った花が、旅人の顔をなでて送り出す。

    私は漢の高祖の剣のように天高く飛び立つはずだったのに、

    どういうことなんだ。故郷へ帰る車に病身を載せるとは。


    ※「漢剣」晋の時代、宮中の宝庫が焼けた時、漢の高祖の用いた剣が屋根を突き破って飛び去ったという伝説がある。


    李賀のこの七言絶句は岩波文庫の『中国名詩選(下)』(今年出た新編じゃなく、古い方)に掲載されているから、訓読もそこからパクっておこう。

    草は暖かく雲は昏(くら)し 万里の春、

    宮花 面を払って行人を送る。

    自ら言う 漢剣当(まさ)に飛び去るべしと、

    何事ぞ 還車に病身を載せんとは。



    to remember not to remember

    覚えないことを覚えるために

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