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    『本当は間違っている心理学の話』[書評]

    Psychology

    2009年に出版された原著のタイトルは"50 Great Myths of Popular Psychology: Shattering Widespread Misconceptions about Human Behavior"で、直訳するなら「通俗心理学の50の主要な神話:人間行動についてはびこった誤解を打ち砕く」となるだろうか。

    通俗的に、「心理学的に」あるいは「科学的に」、「正しい」と信じられている「迷信」を、懇切丁寧に、ひとつひとつエビデンスをあげて反証している。


    なかには「サブリミナル効果でものを買わせることができる」のようなあまりにも古典的な擬似心理学もあって、これをわざわざ掲載する必要があるのかな~と疑問に思うものもある。「モーツァルト効果で子どもの知能が向上する」とか。「睡眠学習は効果的な方法である」とか。

    アメリカの文脈で書かれているため、「こんな神話は、日本にはないぞ?」と首をかしげたくなる部分もあれば、日本社会でもわりと通用している「神話」もある。


    日本にもあるなあ、この誤解、と思った項目をあげると:


    • 人は脳の10%しか使っていない
    • 左脳人間と右脳人間がいる
    • 高齢者は不満が多くなり、心身ともに衰えが増す
    • 自分とは違うタイプの人に惹かれる
    • 男女のコミュニケーション方法はまったく違う
    • 幼児期の性的虐待は、深刻なパーソナリティ障害を引き起こす
    • 筆跡にはパーソナリティが現れる
    • 満月の日には精神病院への入院と犯罪が増える
    • 精神病の人は暴力的である
    • 犯罪プロファイリングは事件解決に役立つ

    あれ、意外と少ないなあ。

    ぼくの目から見て、この評価のしかたは変だ、と感じたものを除外しているからかもしれないけど。

    たとえば発達心理学にかんするいくつかの常識が「神話」とされているのだけれど――「青年期の不安定」「中年期の危機」「空の巣症候群」など――《西洋近代文化圏以外ではこういうことは起きていない》というふうに文脈を変えて反証するのはちょっと卑怯な気がする(ぼくが社会学者だったときは、心理学のライフコース論とかマズロー的階層論とかを理論的な誤謬だ!って怒ってたけど)。



    「人は年をとると物覚えが悪くなる」というのも、日本でもかなりはびこった「神話」だと思う。

    「老人は新しいことを覚えられない」という一般的な偏見(通俗心理学!)にさらされて生きているから、若いときには思い出すことに動機づけられたけれど、年をとると「年だから、ダメね~」なんて言い訳が通用してしまい、思い出すプロセス(心理学用語で「想起」とか「再生」とかいう)を断念することに動機づけられてしまう、ということがあるというだけの話だろう。


    「人は脳の10%しか使っていない」(いやいや、日本では最近では「3%説」が流行りみたいだよ!)って、たぶん、脳と意識を混同してるんだろうけど。


    「精神病の人は暴力的である」

    先日、川崎市の渡辺小児科ってとこの医者が、近所に統合失調症患者のグループホームができるのが不安だからみんな署名して!とか、医者にあるまじき記事を公開しちゃったりして問題になったけど(記事は削除しちゃった)、こういう偏見もまた根強くて、おかしな世の中だなあと思う。



    本書の巻末付録として「検討すべきその他の神話」に、50選からは漏れた「神話」がリストされている。そちらの方にむしろ、日本に根強い「神話」が多いのではないかと感じたりもした。

    いくつかあげてみよう:


    • 脳画像で活性化を示す部位は、その部位が活動的になりつつあることを示している
    • アルファ波が出ている意識状態」は脳がリラックスしていることと関係している
    • 成人では新しい神経細胞(ニューロン)が成長することはない
    • 一種類のアルコールを飲むよりもさまざまな種類のアルコールを飲むほうが、泥酔しやすい
    • 暗いところで読むと視力をダメにする
    • 効果的な親子の絆を築くためには生まれて最初の数分が重要
    • 乳幼児の発達では最初の3年が重要
    • 乳幼児は母親とだけ愛着の絆が結べる
    • 結婚満足度は子どもを持ってから増幅する
    • 女性は男性に比べて運転がヘタである
    • モチベーションがとても高いと、難しい問題を解決する助けになる
    • 罰は長時間継続している行動を変えさせる有効性の高い手段である
    • 催眠に誘導するにはリラックスしていることが必要条件である
    • すべての人間でポジティブ思考がネガティブ思考より優れている
    • 女性のほうが男性よりも直感力に優れる
    • ほとんどの女性は月経前に気分が悪い状態になる
    • ポルノを見ると攻撃性が高まる
    • 占星術は偶然以上の確率でパーソナリティ特性を予測する
    • 幻覚は、間違いなく深刻な精神疾患の兆候となる
    • 心身症は完全に思い込みである
    • 自殺を何度もほのめかす人は、とても実行しそうにない
    • 統合失調症は実際には決して回復することはない
    • ヘロインを使用する人はみんな、実質上中毒である
    • 更生プログラムは、犯罪者の再犯率に対して、まったく効果がない
    • ほとんどの小児性愛者(児童虐待者)は、かなり高い確率で常習性がある
    • 非行少年に対する最善の処置は、彼らに「厳しくあたること」である
    • アルコール中毒は、独特な形で「現実の否定」と結びついている
    • 心理学的な原因による障害は心理療法が必要であり、遺伝的な原因の障害は投薬が必要である
    • 経験のある治療者の治療成績は経験の浅い治療者よりも優れる
    • 抗うつ剤は自殺リスクを増大させる
    • 「天然もの」という名称がつくものは安全ということである

    たくさんあげてしまった!!(笑)


    う~ん。日本版としては、これらの「神話」を扱ったほうが良かったのではないかと思えてくるほどだ。

    たとえば「3才児神話」なんかは、日本でたびたび議論されるトピックだし(さいきんでは「10歳児神話」「11歳児神話」などもある)、


    「罰は長時間継続している行動を変えさせる有効性の高い手段である」というのは、言い回しが難しいけど、簡単にいえば「悪い行動する子どもには叱るべきだ」

    みたいな迷信のこと。

    これ、いまだによくあるからなあ。

    「うちの子、いくら叱っても、言うこと聞かないんですよ!」

    「お母さん……叱るからですよ」

    みたいなやりとりが、カウンセリングの場面でも続出する。


    カウンセリングといえば、「心理学的な原因による障害は心理療法が必要であり、遺伝的な原因の障害は投薬が必要である」をボールド体にしておいた。

    ときどき、カウンセリング(心理療法)ってどういう場合に受けるのが適切なのか、わかっていない方に出会う。

    「カウンセリングなんて受けないで西洋医学を信じろ」っていう誤解をする人もいれば、「とくに劇的なイベントが生じたわけではないからカウンセリングは無駄だ」という誤解をする人もいる。

    「ガンと診断されている」「事故で片足を失った」など、病院での治療やリハビリが「必要だ」と一般的にみなされていることがらについては、カウンセリングは無縁だと誤解している人もいる。


    最後に、「化学物質よりも、自然から作られたもののほうが、体に良い」ってやつね。

    オバサン向けマルチにありがちな、「天然成分配合」ってやつね。

    「エビデンスは?」ってきくと、「エビデンスって?」って答える。

    こだまでしょうか、いいえ、だれでも。



    ところで、この手の「疑似科学批判」に対してよくある反応が「おまじないみたいなものに、目くじら立てて批判するなんて、大人げない!」というものだ。

    こうした問いには、著者らは「なぜ心理学神話について知っておく必要があるのか」そしてそれらが「神話である」(迷信である)ということを知っておく必要があるのはなぜか、という問いを立て、こう答えている。

    1. 心理学神話は有害でもある
    2. 心理学神話は間接的にダメージを与えてしまう
    3. 心理学神話を受け入れると他の分野でもきちんと考えることができなくなる

    ぼくもこの意見には賛成だ。

    通俗心理学と、擬似医学にかんしては、害悪が短期的に生じやすい。

    「親学」でググってもらえれば、どれだけ多くの政治家が誤った知識に基づいて政策を実行しようとしたのかわかる。

    少年法の改正を!と叫ぶ人たちの「厳罰主義」は、科学的には、ネガティブな結果を導くことが証明されている。そのことを、どれだけ知ったうえで、彼らはそう主張しているのだろうか。



    で、じゃあ、そういう「通俗心理学」を、なんで人間は信じちゃうの? 心理学って、そういうことも研究対象にしているんでしょ?

    これについては「10の原因」があげられているのだけれど、これについてはまたの機会に書くかもしれない。



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