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    7つの習慣をアジャイルに?!

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    「マリリンダ本」とぼくが勝手によんでいる(マリリンとリンダが書いた本だから)『Fearless Change アジャイルに効くアイデアを組織に広めるための48のパターン』(タイトル長いよ)の第1部・第1章で、スティーブン・コヴィーの『7つの習慣』が引用されていて、意外に感じた。

    ぼくの中で、軽量で適応的でスピード感あふれるアジャイルと、復古主義的で保守的でモルモン教経典のお手軽版でしかない『7つの習慣』は、水と油だと思っていたからだ。

    『7つの習慣』はご多分に洩れず、「パーツ組み合わせ型」の20世紀の自己啓発本だが(だから誰にとっても読みやすい)、同時に「こういうのアメリカ人好きだよなあ」と溜息をついてしまう、例の特色を備えている。

    つまり「ツリー状」「階層論的」である。「四象限」も大好きである。

    アジャイルのひとつ源流にパターン・ランゲージがあるように(マリリンダ本はパターン・ランゲージを組織運営に応用したものだ)、アジャイルのスタイルは「セミラティス状」であり、誤解を恐れずに言えば「リゾーム状」である。

    パターン・ランゲージの発案者クリストファー・アレグザンダーは「都市はツリーではない」で《〔ツリーという〕その名は、抽象的構造の名である。それを私は、セミラティスという、より複雑な抽象的構造と対比させたい》と言っている。


    マリリンダ本が『7つの習慣』から引用している部分をみよう。「第1章 組織と変化」の中の「組織文化」の節で引用している。


    あなたの同僚たちがイノベーション決定プロセスの各段階を通り抜けるスピードには、組織文化が多大な影響を及ぼしている。〔略〕

    変化を許容するには、組織は十分な柔軟性をもっていなければならない。スティーブン・コヴィーは『7つの習慣』で、こんな話を紹介している。ある男が一生懸命木を切っている。

    「何をしているんですか」

    「見ればわかるだろう。この木を倒そうとしているんだ」

    「すごく疲れているようですが…。いつからやっているんですか」

    「かれこれ5時間だ。くたくたさ。大変な作業だよ」

    「それじゃ、少し休んで、ついでにそのノコギリの刃を研いだらどうですか。そうすれば仕事がもっと早く片付くと思いますけど」

    「刃を研いでいる暇なんてないさ。切るだけで精いっぱいだ」

    残念ながら、効率化や品質改善の新しい方法を学ぶ時間など、なかなか取れないのがふつうだ。〔略〕どんなに保守的な文化の中でも小さな変化は起こりうる。しかし、そのスピードは遅く、変化を待つ忍耐力は、より多く必要になる。


    「マリリンダ本」は、イノベーション決定プロセスを加速・減速する要因として「チェンジエージェント」「組織文化」「そこにいる人々」を挙げている。この「組織文化」の節は、ふたつめの要因として書かれている。

    まあ、「組織文化によっては、加速することも減速することもあるよね」とだけ言っていて、だからどうすべきかについては、これといって言ってないに等しいんだけど(ピーター・センゲの『フィールドブック 学習する組織』を好意的に引用しているだけだ)。


    マリリンダ本では、こうした加速・減速要因を「現状分析」としてみさだめましょう、とだけ言っていて、「現状を把握したうえで、変化のためのパターン・ランゲージを使いましょう」と論じられていく。

    小気味よいのはいいのだけど、でもなんでコヴィーを引用したんだろうね。

    気に入ったエピソードなんだろうか。



    まあ、それはともかく、「セミラティスであるはずのアジャイルが、ツリーであるコヴィーを引用している」というぼくの違和感をわかってもらうためには、『7つの習慣』が「いかにツリーなのか」を説明しなければならない。

    「誰でも読んでるから説明いらない」って?

    うん、まあ、そうかもしれないけど、結論から言うと、『7つの習慣』は保守的アメリカ人が好きそうなツリー構造をしていながらも、中身は自己啓発本にありがちな「パーツ組合せ型」で、ある意味、パターン・ランゲージでつくったツリーじゃないか、というのがぼくの感想なんだ。

    だから好きだ、とはならないけど。


    『7つの習慣』の完訳本が去年出て、今年の「25周年記念版」には蛇足としか言いようがない付録がいっぱいついて出版された(ぼくは好きでもないのに「記念版」を持ってる(笑))。

    上で引用されている「刃を研ぐ」エピソードは、読んだ人はすぐピンとくると思うけれど、7つの習慣のうちの第7の習慣、その名も「刃を研ぐ」の冒頭のエピソード。

    先の引用に続いて、コヴィーはこう述べる。

    第7の習慣は、刃を研ぐ時間をとることである。成長の連続体の図では、第7の習慣が第1から第6までの習慣を取り囲んでいる。第7の習慣が身につけば、他のすべての習慣を実現可能にする。

    (完訳424頁)

    「成長の連続体の図」というのは、次の図のこと(モバイルだと見づらいかもしれない)。

    成長の連続体

    第7の習慣が円を囲んでいて、第1から第6までが円の内側にある。

    第1から第3までは「私的成功」に関わっていて、第4から第6までは「公的成功」に関わっている。

    で、じゃあ、公的に成功したいから、まず第6の習慣をやってみよう、とはいかないのだった。

    コヴィーは〈依存〉→〈自立〉→〈相互依存〉という「成長の連続体」を想定している。

    だから、まず第1の習慣によって「私」という「主体」を作り出し、段階を踏んで成長し、〈自立〉にいたり、やがて社会を含めたあらゆる自然界は〈相互依存〉で成り立っていることに気づく(ところで原文では第1の習慣は"Be Proactive"なんだが、なぜ「主体的である」と訳されているのだろう)。

    としている。ツリー状でしょ? トポロジカル的には。階層論的でもある。

    そして(ここが画期的なのだが!)この世界を第7の習慣が包囲し、調和をもたらしている(笑)。



    続き。

    先の引用に続いて、こう述べる。

    第7の習慣は個人のPC(成果を生み出す能力)である。あなたの最大の資産、つまりあなた自身の価値を維持し高めていくための習慣である。あなたという人間をつくっている四つの側面(肉体、精神、知性、社会・情緒)の刃を研ぎ、再新再生させるための習慣である。

    〔略〕

    そのためには、私たちは主体的であらねばならない。刃を研ぐのは第II領域に入る活動であり、第II領域は、あなたが主体的に行うべき活動の領域である。

    (完訳版425-6頁)

    「PC」だとか「第II領域」だとかなんのこっちゃと思うかもしれない。説明する。


    コヴィーの造語に「P/PCバランス」というのがある。

    Productionつまり「成果」、Productive Capabilityつまり「能力」、このふたつのバランスがEffectiveness(効果性)にとって大事だよ、というのがコヴィーの基本原則。

    「刃を研ぐ」のはPCのためだ、ということになる。


    そしてそれは「第II領域に入る活動」だといっているが、これは次の図。

    時間管理

    でました四象限!!アメリカ人はみんな大好き!!(偏見)

    コヴィーはまず第I領域=重要かつ緊急であることをやりましょうと言う。しかしPCのためには第II領域をやりましょう、と言う。

    効果的な人々は、第III領域と第IV領域を避けようとする。この二つの領域に入る用件は、緊急であろうがなかろうが、重要ではないからだ。彼らはまた、できるだけ第II領域の活動に時間をかけ、生活の中で第I領域が占める割合を小さくしていく。

    (完訳版204頁)

    で、「刃を研ぐ」ために、運動しましょう、みたいな話になっていくわけだけど(笑)。

    なんでこれがベンチャー企業で読まれているとされているのかよくわからない(本当かどうか知らないけど)。


    アジャイルに効果的であったりイノベーションのために一番重要なのはこの中では第4領域であるのは言うまでもない。

    「快楽だけを追求する遊び」をとことんやっていたらFacebookやGoogleやAppleができちゃった、ということでしょう。

    緊急かつ重要なこと、即、快楽そのもの、という見方ができないのは、モルモン教的だよね。

    日本でウケた(のかどうか定かではない。ぼくの周囲で読んでいる人はひとりもいない)のもこういう時代錯誤的な保守性に覆われている時代だからかもしれない。



    アジャイルであるマリリンダ本で引用されている意味はよくわからないけど(「よくあるアジャイルでない組織文化」の例としてひかれているのは明らかだけど)、ツリーをズタズタにカットアップして、脱文脈化し、リミックスするというのを、パターン・ランゲージの手法に取り入れてみましたってことになるのかもしれない。

    あんがい、こういう「困ったオヤジ」に対処する方法というのは、そんなところにあるのかもしれない。




    いちおう、言及した文献をあげておく。


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