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    集団的自衛権と中期防衛力整備計画

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    昨日の閣議決定のニュースをNHKで見ていたら、なんとも不思議な気分になった。安倍晋三が会見を開いていた。安倍晋三の目的は明確すぎるほどわかるのに(共感できるという意味ではないが)、そのロジックの部分はまるで理解できるものではない、というか、「ロジック」というものを徹頭徹尾排除している話しぶりだった。


    最近流行りの言葉で言うならば「ポエム化」ということになるのだろうが、ぼくは「ポエム」を罵倒語として使うことには反対である。たんに「相田みつを的なもの」とでも言えばよい。ようするに「居酒屋甲子園」とか「あこがれ先生プロジェクト」とかの、ネトウヨ親和性が高い、ないしマイルドヤンキー親和性が高い、毛筆書きで意味ありげなメッセージをドデデンと掲げる、「ありがとう!」「感謝!」とか、その手のワタミ的な、あれだ。


    安倍晋三の発する言葉は、一言一言、文法的にはほとんど間違いがないかもしれないが、意味(Bedeutung / referenceないしmeaning)がまったくない。これがどういう事態を引き起こすか(ないし、彼が何を成し遂げようとしているのか)。いくつか思い当たることがあるが、主に2つのパフォーマティヴな効果があるだろう。


    第一に、叙述の全体として何も意味しないことによる宙吊り効果。たとえば、「国の存立を全うし、国民を守るための切れ目のない安全保障法制の整備について」(リンクはPDF)に書かれているようなことがしたいのであれば、たんに「個別的自衛権の延長」でできないこともないはずだ。「国際法的な法理」として「集団的自衛権」と言っているだけだ、という言い逃れもできるだろうが(そうしているつもりだろうが)、国際法が日本に憲法解釈の変更を求めているわけがない。国際法的には、「日本に集団的自衛権はない」などと判断を下したことなどない(まるで逆で、個別的自衛権も集団的自衛権もある、と判断している)。あくまでも安倍晋三は、「国内向けに」集団的自衛権と言いたいのである。そして、集団的自衛権がなければ国民を守れない、などという詭弁を弄しているだけである。


    この点を決定的に裏付ける発言が、昨日のNHKニュースで流れてきたのだが、文字起こしがないので引用することができない(NHKニュースは全部アーカイブで残しておいて欲しいものだ)。代わりに新聞にも掲載されている「ポイント」とされる部分をWebから引用しておく:


    協議では政府側が、武力行使の新たな3要件に基づき「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある場合に、必要最小限度の実力を行使するのは自衛の措置として憲法上許容されると判断するに至った」などとする閣議決定の最終案を示しました。これについて両党からは特に異論は出ず、従来の憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使を容認する閣議決定案で合意しました。

    集団的自衛権 自公が合意 党内手続きへ NHKニュース


    「日本の存立が脅かされ、国民の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」であれば、必要最小限どころか最大の「個別的自衛権」を発動すればよいだけの話だ。ところが安倍晋三は、「集団的自衛権がないのであれば、実力行使はできない」という誤った解釈に誘導している。「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し」という部分が「集団的自衛権」にあたるのだ、と言いたいのだろうが、仮にアメリカの一都市に弾道ミサイルが向けられたとして、それがなぜ「日本の存立が脅かされる」ことになるのだろうか(じっさい、この閣議決定で、アメリカに向かったミサイルを自衛隊が撃ち落とす事が可能になる、と政府は明言した)。ここにきちんとしたロジックがあると把握する日本国民が、何人いるのだろうか。それとも「他国」とは、日本国内の米軍基地のことなのだろうか。だとしたら、そのミサイルは米国である米軍基地に着弾するまでに日本の領空を通過するのだから、日本国土に落ちる危険性もあるわけで、勝手に自衛として撃ち落せばよいではないか。それが「迅速に」できないから、なんて言い訳するぐらいなら、現状の指揮系統に瑕疵があるというにすぎないわけで、その補修を先にやったほうがよい。


    「宙吊り効果」と言ったが、意味を明確に定めないことで、「支持者にバレないように」目的を遂行できる、という効果になる。支持者とはもちろんネトウヨのことだが(インターネットなんてやってなくても、安倍自民を支持している層はすべてネトウヨだし、安倍晋三自身もそれを自覚している)。


    もう一つ引用しておく:


    さらに安倍総理大臣は、「『外国を守るために日本が戦争に巻き込まれる』という誤解があるが、そのようなこともありえない。むしろ万全の備えをすること自体が日本に戦争を仕掛けようとするたくらみをくじく、大きな力を持っている。これが抑止力だ。今回の閣議決定によって、戦争に巻き込まれるおそれは一層なくなっていく」と述べ、閣議決定の意義を強調しました。

    安倍首相 行使容認は限定的と強調 NHKニュース


    アメリカに向かった弾道ミサイルを日本の自衛隊が撃ち落としたとして、それはすでに日本がアメリカ側に立って戦争していることになると思うのだが、これを安倍晋三は「誤解」だという。意味がわからない。さらに彼は「抑止力」が目的だという。あれ?「実力行使できるようにするため」の閣議決定じゃなかったの?そのために臨時国会で法改正するんだよね?


    頭のなかは、ハテナでいっぱいである。


    これは支持者にとっても同様である。疑問に思わないから支持しているのだろうが、それは認知的整合性による短絡にすぎない。ロジックを理解しているわけではない(そもそもロジックがないのだから、理解しようがない)。


    これが第二のパフォーマティヴな効果で、「シニカルな動員」とでも言うべきものだ。Twitterでも2ちゃんでもいいから簡単に検索すれば、安倍晋三がターゲットにしているものとはまったく無関係に、安倍支持者たちが自らの正当化のロジックを弄しているのを観察することができる。


    つまり、安倍内閣による閣議決定および今後引き続いて起きる法改正のレイヤーと、安倍自民を支持するネトウヨの欲動レイヤーが、連続していない。二重構造になっている。そして安倍晋三は自覚的にこの二重構造性、シニシズムを利用している。ちなみに別レイヤー(ネトウヨ)の担い手として、安倍は百田尚樹を指名している。


    ネトウヨ(安倍自民支持者)はたぶん、韓国だの中国だのが「脅威」なのだと考えているのだろうが、それは残念でしたとしか言いようがない。韓国は北朝鮮をアメリカと共に包囲するための仲間だし、中国を軍事力で圧倒すべきだと考えるほど間抜けではない(安倍晋三は馬鹿ではあるけれども、程がある馬鹿であって、ネトウヨほど馬鹿ではない)。


    この間、北朝鮮との政府間協議が並行して行われ、今日の会見では制裁措置を一部解除する調整を行うと明言された。この協議とさらに平行して北朝鮮はドッカンドッカン日本海に短距離弾を打ち込むという謎行動をとっていたが、韓国政府は習近平中国主席の訪韓にともなう中韓接近をけん制する意図だという可能性をほのめかしている。


    ネトウヨからみれば、北朝鮮が発射訓練をするのも、中韓が接近するのも、日本にとっての脅威なのだろう。意味がわからないが、たぶんそうなのだろう。


    論旨が散らばってしまうかもしれないが、安倍晋三の閣議決定のデメリット(悪いシナリオ)と、安倍晋三の「目的」をそれぞれ書いておこう。


    まず、「悪い」シナリオから――これは「起こらない」と彼は明言しているが、おそらくネトウヨ諸君がもっとも望んでいる事態であろう――北朝鮮は韓国か日本に、おそらくは韓国に攻撃をしかけるだろう。「本当に」北朝鮮側からしかけるのか、アメリカがそそのかして「北朝鮮を終了させるシナリオを発動させる」のか、どちらかはわからないが、まず{北朝鮮}vs{韓国・日本・アメリカ}のドンパチがはじまるだろう。ネトウヨ諸君は「韓国と手を組むのは嫌で嫌でしょうがないが、北朝鮮相手なら楽勝だし、スカッとするからいいや」と思うかもしれない。しかし北朝鮮はその時点で、ベトナム化するにすぎない。実質的に、{中国・ロシア}との物理的かつ経済的戦争状態に入る。ウクライナをロシアがどうしていくつもりなのか、まだわからないが、ロシアが北朝鮮、というより中国側につくとなったら、ウクライナへの介入にも積極的になるだろう。自衛隊はウクライナにも派遣せざるを得なくなる。ウクライナでことがおきなくとも、シリア・イラクにはアメリカは介入するだろう。また、パレスチナ・イスラエルの情勢も無視してはおかないだろう


    で、TPP(プラス、タイとかとのFTA)っていうのはロシアと中国を排除するブロック経済なわけで、経済的緊張から遅かれ早かれ、ロシアか中国が、関東平野を焼け野原にするだろう。日中韓のFTAはあくまでも交渉中だが、2014年末を目標とされていた合意は先送りされるだろう。もしかしたら中国はFTAには合意しておいて、軍事的には撃ってくるかもしれない。どっちみち日本のどこかが焼け野原になる。うまくいけば関東平野が。たぶん、関東平野を地ならししないことには、日本の人口問題は解決が難しい。人口問題ってのは、都市部にだけ人が集まって、たくさんの地方自治体が財政破綻したり、老々介護の問題だったり、少子高齢化で労働力不足だったり、年金が破綻したり、ようするに日本で「社会問題」とされていることのほとんどのこと。


    「スケールメリット」ばかり言っている連中というのは、そもそも日本人は今後も永久に同じ国土面積で生きていくことを前提にしているのだけど、国土面積を半分にすれば、今の半分の人口になっても今と同じスケールメリットが得られるとぼくは言っている。国土面積を半分にすると言っても、半分沈没させるということじゃなくて(それでもいいんだけど)、ぼくは「建築基準法を改正して、20年以内に、すべての建築物の接地面積が2倍になるように強制すればよい」と言っている。もしこれができないのなら、とにかく移民を急ピッチで労働力化しなければならないし、それもできないのなら、やはり関東平野の地ならししかない。


    もしかしたら、安倍晋三は頭悪そうに見えて、日本の人口問題を真剣に考えてやってるのかもしれない。


    論旨の二点目、「目的」について。


    これは、この記事のタイトルにも入れた「中期防衛力整備計画」が関わっている。自民党が55年体制を終焉させることになった2009年の衆議院選挙の惨敗の結果、2009年末に予定されていた中期防の計画策定は先送りされることになった。2011年、いわゆる「23中期防」を民主党政権が策定するのだが、2012年の衆議院選挙で再び自民党が与党になり、これを廃止。2014年4月より開始されたのが、いわゆる「26中期防」である。


    ところで、自民から民主への政権交代のときに生じた空白期間によって、2010年度の防衛関係費予算は閣議決定による単年度予算になった。中期防策定の遅れは次期戦闘機導入計画(F-X)に関与している住友電気工業などの事業撤退なども引き起こしている。


    このこととまったく関係がないように見える、2011年の福島第一原子力発電所事故だが、この事故の収束というか後始末に当初から関わり、いまだに尽力しているのが、なぜか東京電力(と日本国政府)である。東京電力は電力供給のエキスパートかもしれないが、「原子力」テクノロジーの専門家ではない。物理学者がエキスパートなのかというと、どうもそういうことでもないらしい。物理学者の田崎晴明氏が次のように書いている:


    「物理が好きで専門に勉強したといいながら、原発の問題に気付かないとはけしからん」とお叱りを受けたら、返す言葉もない。言い訳にはならないけれど、ぼくらが物理学の世界に入ったときには、もう原子力発電というのは基礎的な物理学を離れた、どこか遠い分野の話になっていた。

    (略)

    そういうわけだから、福島第一原子力発電所で大事故がおきたときには本当にショックを受けた。もとをただせば物理学から生まれてきた技術がこんなすさまじい被害と苦しみを人々に与えることには愕然としたし、今まで無関心だったのはまずかったと素直に思った。思ってもどうしようもないし、何の言い訳にもならないのはわかっているけれど。

    (田崎晴明『やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識』朝日出版社)

    ようするに「原子力発電」というのはたんなる科学(物理学のような純粋な学問の一分野)ではなくて、「工学」とか「技術」とかの領域であって、科学者が学問的な立場からどうこう言えるようなものじゃなかった、ということで、これは事実である。じゃあ誰が原子力発電のエキスパートなのよ、といえば、原子炉のメーカーである。つまり日立・東芝・三菱だ(あと鹿島建設も絡んでいるけど)。東京電力は原子炉を購入したユーザーでしかなく、「原子力発電」については何も知らない。ぼくらと同じ素人だ。そんな連中が、たまたま購入した機械の不具合で生じた事故の後始末をやろうとしても、素人の浅知恵でうまくいくと思うほうがどうかしている。なお、鹿島建設は除染作業の一次請けをずっと担ってきたけど、中ぬき問題(三次請けに危険手当が支払われないとか)の露呈などの事情で、いろんな業者(そこには放射性物質の除染にかんするエキスパートも入っている)も参入するようにはなった。


    何が言いたいかというと、日立・東芝・三菱は原子炉を、少なくとも日本国内向けには売りにくくなった、ということ。安倍晋三ががんばって海外向けに営業に出向いてるけど、それすら非難を浴びている。原子炉を売れなくなったから、こんどは核兵器をつくるのか、というと、そういうわけではない(いや、とっくに作ってるという説もあるだろうけど)。原子力発電のための原子炉作成技術と、核兵器作成技術は、回鍋肉のおいしい作り方とドリップコーヒーの美味しい淹れ方より違う。はるかに違う。


    そうすると、新たな「ゼネコン的テコ入れ」が必要になる。東日本大震災と東京オリンピックのせいで、コンクリート系の(ほんらいの)ゼネコンはもうすでに人手不足でどこもかしこも困っている。不動産経営者が嘆いている。修繕にすら土建屋がきてくれなくなったって。シャッターおろした不動産屋もたくさん(個人的に)知っている。


    じゃあ、自衛隊に供給する武器をつくればいいのか、と短絡しそうになるけど、もちろんそういう側面もあるし、「あきづき型護衛艦」は「あきづき」「てるづき」「すずつき」の三艦は三菱重工業が作った。とはいえ、たとえば「いずも型護衛艦」は――去年「ながと」になりそうだったのが、海外の反発を憂慮して「いずも」になった――ジャパンマリンユナイテッドが作っている。「ジャパンマリンユナイテッドって、前身は日立造船じゃないか!」と思うかもしれないけど、ステークホルダーとしては日立造船は8.15%にすぎない。筆頭株主はIHI(石川島播磨重工)とJFE。


    東証株価指数のTOPIX 100に、日立製作所・三菱重工業・東芝・JFEそして(次期戦闘機の)住友電気工業が入っている。IHIは三井グループ。JFEの筆頭株主のひとつ第一生命も入ってる、とか、細かいことを言い出せばきりがないが、ようするに、安倍晋三が誰のために動いているのかといえば、このへんである。


    で、たぶん、安倍晋三が意識的に動員しているレイヤー=ネトウヨの目的と、安倍自民の目的は、ぜんぜん違う。ワタミの渡邉美樹って自民党の議員になっちゃったけど、ネトウヨは(左翼がワタミを嫌いであるのと同様)ワタミが嫌いでしょう。そのまったく異なるレイヤーを接続しているのが「ポエム」というわけなんだろうと思う。


    その先駆は――小田嶋隆は中田英寿だって言ってるが、ぜんぜん違う――相田みつをであり(10年前ぐらいから、神社仏閣に掲げられる標語が「みつを化」している、ということをぼくは別の場所で書いた)、齋藤孝の『声に出して読みたい日本語』である。「美しい日本語」のような、指示対象(reference)のない、愛国スローガンによって、「シニカル動員」されているのが、今の日本と国会の現状である。

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